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  • 執筆者の写真Guth Marissa

舞台芸術を未来に繋ぐ基金について

万里紗とノミヤのプロジェクト「詩劇 響きと怒り」が動き始めて、早くも半年とちょっと、が過ぎました。

この度万里紗は、本企画に対し「舞台芸術を未来に繋ぐ基金」の助成を受ける運びとなりました。 「感染症拡大とその対策」の影響によって、日本のみならず世界各地の演劇界が打撃を受けている中で、舞台芸術文化の存続と発展を願う多くの方がこの基金にご寄付をくださいましたこと、心より御礼申し上げます。 皆様の想いにお応えできるよう、本企画の素晴らしい仲間たちと共に、全力で励んで参りたいと思います。 万里紗とノミヤのプロジェクト「詩劇 響きと怒り」は、ウィリアム・フォークナー作の大著『響きと怒り』を女優1人のモノローグ芝居として再構築し、その創作過程を社会に開き インクルーシヴに積み上げていくことに試みています。 まず私たちは、過程を開く試みを=“プロセス・プロジェクト”と題し、ここまでにその①「語らい」を行なって参りました。 演劇創作の現場では、しばしば座組メンバーで作品の主題について「話し合う」ということが行われます。また、時には作品のテーマや、それに馴染みのない俳優が学んだり体感したりするため、外部からゲスト講師のような存在が招かれ、お話をお聴きすることがあります。 例えば、私のこれまでの経験で印象的だったものとしては、「K・テンペスト2017」(串田和美演出)に参加したときのことがあります。同作品の音楽的要素として重要だったのが、西洋的な音階で構築されたものではない音楽、人の声の響き合いや倍音でした。 そのため、音楽監督の飯塚直さんが、僧侶の方や、ブルガリアンボイスの専門家の方を招いてくださり、みんなで読経をしたり、なぜブルガリアではあんなに遠くまで届く発声法が発展したのか、お話を聞いたりしました。 それが直接台本になったか?もちろんそんなことはありません。私たちが創るのはシェイクスピアの戯曲。仏教的要素も、ブルガリア的要素も出てきません。 でも、「何も無いところ」に「仮想の有」を立ち上げるのが演劇とすれば、 その時間、みんなで車座になって自分たちの知らない世界に想いを馳せたことや、互いの声に宿る揺らぎに耳を傾けたこと、座組の「外部」の方の人生を聞き、それぞれの頭の中でその日々を「想像」したことは紛れもなく演劇であり、その時間(或いは空間) は確かに作品に宿った、と感じていました。 また、同年冬に「ペール・ギュント」(ヤン・ジョンウン演出)に参加したときも同様のことを感じました。同企画は“日韓文化交流企画”と銘打たれ、出演者の半分は韓国から来たメンバー、せりふも韓国語、日本語果てはフランス語や英語まで飛び交っていました。 まさに、効率や分かりやすさといったものとは正反対の俳優布陣。創作のプロセスや習慣も違う上、引いて見れば、両国が抱える歴史的葛藤も、先の未来を生きる私たち出演者のような若者たちが引き受けていかなければならないもので、一筋縄ではいきません。 そこで演出家が提案したのは、みんなで話し合うことと、共に黙想(瞑想)をすることでした。 この2つの相互作用は、これまた刺激的でした。 両国ともに、「えらいひとたち」は言葉を武器にそれぞれの立場、見解を主張してきています。だけど私たちは、ただそこにみんなで存在し、黙って自分と向き合うことを求められたのです。静かに自分の内側を見ていると、私たちが普段身にまとっている「立場」や「記号」は剥ぎ取られ、奥底で感じているその人自身の本質的なものが見えてきます。 そしてその上で、お互いの人生や、作品について思うことを話す。人の話に耳を傾け、100%相手を受けいれる。 勿論日本では精神世界的な行いに歴史的トラウマがありますから、私自身戸惑いもありましたし、その経験があったからこそ私が素晴らしい演技ができたかと言えばそんな簡単な話ではないとは思いつつも、ああして空間を共有し、他者を受け入れ、他者を想うという濃「密」な時間こそ、演劇の本質的な部分であり、演劇の核となる機能、効能だよなぁと、今改めて感じているのです。 そんな思いがありながら、今私たち個人が「切り離される」という状況下にあって、演劇の核たる部分=空間の共有・相手を想う、がオンラインでも行えないか、とプロセス・プロジェクト①「語らい」を行ったのです。 この内容はYouTube上に記録として残しております。 あくまでこれは対外エンターテイメント番組ではなく、参加者が空間を共有するということを目的にしているため、編集も簡素ですし、参加したメンバーの(演劇的な意味での)「共犯性」を確保するため、全編ではなく一部のみ、の公開となっています。 ですが、素晴らしいゲストスピーカーの協力のおかげで、これまで恐らく演劇と縁もなかったであろう人々と豊かな時間を過ごすことができました。 語らい1〜6は、当企画HP(https://marissatonomiya.wixsite.com/thesoundandthefurymn/blank-3) または、以下よりご覧いただけます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ●語らい 1 :「詩劇 響きと怒り」始動 、前提を考える https://youtu.be/r0hPyu6J5go ●語らい2:ゲストスピーカー 姫野桂さま  発達障害とすべての人が抱える「生きずらさ」について https://youtu.be/vn4B70RQM2M ●語らい3:ゲストスピーカー 文学YouTuberムーさま 「響きと怒り」と私。みんなどう思った? https://youtu.be/WSzjHmt4SJo ●語らい4(前編・後編):ゲストスピーカー 杉山直子さま アメリカ文学と南部、「黒人」文化について 前編  https://youtu.be/ILL-Nasa-E4 後編 https://youtu.be/lwuCYVa_0qA ●語らい5:ゲストスピーカー 鈴木みのりさま コロナ禍に伴い見えてきた演劇制作現場に必要な「環境」づくり、社会的マイノリティとして日本の演劇界で活動することについて (※公開準備中!) ●語らい6(前編・後編):ゲストスピーカー あべけん太さま、阿部俊和さま (及び万里紗の弟であるグース仁)「きょうだい」関係、「障害」とアート活動について(※公開準備中!) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー さて、本企画は次にプロセス・プロジェクトの②ワークショップに進んで参ります。 これは、演劇創作の過程に、作者本人の当事者性がより盛り込まれることと、加えて演劇制作の現場が、アート活動を望むがなかなかその資源に接続されるチャンスの少ない方の<職場体験>として機能する可能性がないか、小さな規模ではありますが、試すことを目的としています。 私事ですが、私の弟は障害者手帳を持つ「知的障害者」で、医療的言語で言えば、21番目の遺伝子が一本多い、「ダウン症」です。(を持っています、と呼ばれています、ううん、どの言葉もしっくり来ませんが。) 彼は、その人生の中で、私も想像できないくらい豊かな出会いに恵まれ多くの人から愛情を受けてはきたものの、「表現活動をしたい」「表現が好き」と思いながら、なかなかそれを継続するのは難しい環境にありました。 自分の父親がろくな理由も説明しないまま家を去ったことや(ロマンティックに表現しすぎかな)、私のように自己主張の強い姉を持ってしまえば、それも無理のないこと。 「ダウン症」の方は明るく前向きで天使のよう、というステレオタイプがありますが、彼の場合、本当に自分が「受け入れられている」という確信がない限り、積極的に動くことはとてつもなく高いハードルなのです。 特別支援学校でヴァイオリンの授業を取ったり、ダンスサークルに行ってみたりするも、周りのメンバーの積極性に圧倒され動くことができなくなり、継続ができませんでした(本人はそれを“クビになった”と言っています)。 これはあまり踏み込んで指摘されていないことかと思いますが、私の体感的に言えば、知的に「障害」を持つ方にとって、その家族や家庭環境というのはすごく大きなポイントで、高所得者層に生まれれば人生の選択肢が多くなり、そうでなかった場合、そこから自分の意思だけで抜け出したり、別の選択やロールモデルを探し出すのは困難さが増します。それは生活の“ルーティン”がかなり強く定着し世界観の礎となるためです。(私の弟と過ごしている中での体感のため、論証はできませんが。)


そして所得の問題は、成功体験の数、人から褒められ自信を獲得する経験とも密接に関わっています。


私の弟も、責任感が強い母がいたおかげで、地道に絵だけは続けていますが、幼い頃から私の舞台を観続けている彼が「一緒に舞台やろうよ」と2019年末に私に言うまで、20年以上かかったことを思うと、それだけ社会が彼に与えてきた人生の選択肢の資源は限られていた、ということです。

特別支援級に進学し、特別支援学校に行き、そして当たり前に福祉事業所に通うようになる。それ以外の道なんて考えたことなかったし、それしかないと思っていた。だって、こんな世界の中で一緒に生きていくことは、決して簡単ではないし、自分の親を介護しながら子どもを2人育て、離婚調停もこなしていた母にとってそれは、精一杯の努力だったはず。


でも、1日1日を生きていく中でそばにいた私が忘れていたことがあります。

それは弟がエンターテイメントが大好きだということ(アイドルも好きだけど、

なんと私が出演したアングラ作品も愛してくれた)。

一度聞いた音楽は忘れず、1人黙々と練習をしていたこと。


ありがたいことに、舞台芸術は裾野が広く、例えば出演するという選択肢だけでなく、スタッフ部門や、チケット管理、チラシ折り込み、もぎり、劇場清掃と様々な分野があって、個性・特性さえマッチすれば、どんな人でもそれぞれの才能を発揮できる場があるのです。


ちかごろ、知的に障害を持った方の「超短時間労働」の取り組みが増えてきていますが、その中で大切とされているのが、業務を明確化することと、その人に適した、やりよい業務とやり方を工夫し割り当てること。

ここでは詳細は省きますが、業務が細分化している舞台芸術にはそのような可能性が秘めてれていると私は思います。


ですが、舞台芸術界全体の収益が上がらなければそういった「工夫」もしにくいのは確かですし、このコロナです。いつもそこにあった「差」が、よりくっきり生活の中で出てきてしまう。人を増やしていくのは現実的とは言えない状況となってしまいました。


その中においても、どうしても私には<演劇>というものの裾野の広さを自分の企画で取り入れたい思いがありました。


そこで、マイノリティのアート活動の日本におけるパイオニア、SLOW LABELの栗栖良依さんにアドバイスを頂き、ならばこの「響きと怒り」の中心的なテーマである「障害」を持つ弟、とその姉、に焦点を絞って、その間に各分野のプロフェッショナルをファシリテーターとして噛ませ、私と弟がアーティストとして出会い直すプロセス・プロジェクト②「ワークショップ」を行うことになりました。


ワークショップでは、プロの画家の柳田有美さん、そしてダンサーの本田綾乃さんと共に女優=万里紗、そしてグース仁が、実際に作品を上演する際に使用する舞台美術と、ダンスシーンを作っていきます。また、劇中で使用する映像を、今回の出演ミュージシャン/映像作家である中澤ナオさんと共に撮影します。

そして各過程は記録映像を撮り、こちらもオンラインで公開していく予定です。


作品そのものの上演は、2021年2月以降を目指し動いています。

今回助成いただいた基金は、劇場の費用や著作権料の支払い、美術の材料費などに使用させて頂いています。

皆さまに劇場で楽しんでいただけますよう励んで参りますので、引き続きご注目いただけますと幸いです。


【舞台芸術を未来に繋ぐ基金】motion gallery 2020/8/25まで



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